今年はぎりぎりまでペースダウンしましたが、完走できてよかったです。ありがとうございました。...
「おやすみ」の曳くカーソルのまたたきを振りきつて送信して おやすみ...
深海のたたかひの疵もつ勇魚(いさな)を恋ふるあなたの傷もわが恋ふ ...
この三日地下に潜めるわが車に閉ぢ込めし蚊をおもふ蒼穹...
なにごとのありて水槽出でたるや あはれ直訴の沼海老は干(ひ)ぬ...
刈り取りしあとに複芽のしげりたる秋冷の朝のバジルにみづを...
猫のごと巻きたるしつぽに鼻先をうづめてねむるゐもりやすけく ...
餌を撒きてさびしきわれがかきまぜむ蛍光色の魚の沈黙...
われは月きみのまはりを周回す半身に暝き海をかかへて ...
生ひ立ちを知りたきものよわが井守せはしき雄に動ぜぬは雌...
乾きゆく十月こよひ右側のいちにんぶんの空ろ渇ける...
メダルとは無縁に生くるひとびとのメダル欲(ほ)るこころ時におそろし ...
わが靴の右の踵のそとがはを減らす左脳のまよひ愛(かな)しき...
汝が眸(まみ)のただなかにゐる錯覚といふ名の爺がにやり笑ひぬ...
ヴェンダースの天使おもほゆ図書館に団塊世代の人ら居ませば ...
ふつくらと笑まひきゑくぼの裏がはに千恵子先生の口腔ありき ...
二滴めの言葉を濁すイソジンのうがひ薬を水に落としつ...
最高の一球受けて跳びあがる矢野の笑顔は少年である...
ゆふぐれの風よわが歌つれてゆけ名古屋の空の茜雲まで ...
万の群れなしたる刃回遊し潮にその身を研ぎあげて死す ...
うねうねとほそながき坂のぼりつめ空と<青嵐歯科>に出会ひぬ...
Lサイズの夫でなくてよかつたとアイロンかけつつ思ふ八月...
プロポーズの薔薇百本の半分を児童館に友は飾りき ...
明滅の合図に満てるこの街でほたるのやうにあなたをさがす ...
わが思考を雨の擬音に占められて横横道路で横滑りせり...
触れようと若かりし頃ジャンプして届いたものは何だつたらう...
量るたびはつかに針の迷はさる文に籠めたる想ひふるへて ...
植込のタマツゲつねにかつちりと銀行の脇かためてをりぬ...
なにほども意味なきことのいとほしき 顔寄せあひてゐもり眠れる ...
青紫蘇の育たぬ夏におもひをり緑の指もつひとの系譜を...